平家慕情/平重衡
本日の大河『義経』での「重衡生捕」記念の前祝(?)に、今回はその重衡を堂々の主役に据えた一冊をご紹介!
『平家慕情』(中津文彦著)
花の公達―平ノ重衡
平家一門の興亡のなかで、最後の御大将と呼ばれ戦い散った若き武将の光と影(~本の紹介文より)
平重衡という人物が後世の人々に与える印象といえば、『建礼門院右京太夫集』や『平家公達草紙』に描かれるような朗らかで屈託のない貴公子ぶりと、南都焼討を始めとする諸合戦での軍事手腕や、捕虜となって後の頼朝との対面でも評された豪胆な武人ぶり。
そんな二面性を持つ重衡の「武人」の面を特にクローズアップしたのがこの作品(少し美化しすぎのきらいもあり)。
ですから、前者の優雅な公達をイメージして読むとかなりの違和感もあり、無骨で正義感が強く、恋にも奥手(少しシスコンの気もあり)…の体育会系重衡(笑)は、宮廷貴族というより、むしろ鎌倉の武将に近いような感覚でしょうか。
といっても、合戦が主体というわけでもなく、むしろ、都落ち以前の政治的駆け引きを、父清盛に終始反発気味の重衡視点(というより現代人の視点か)で、時に批判的にも描写している所などは、中々丁寧に書き込まれていますし、何より、読み進めるうちにどんどん話に引き込まれ、最後まで一気に読み通してしまう…、それだけの勢いを感じさせる作品ではあります。
が、著者が男性だからか…。今の大河『義経』にも通じる女性観にはちょっと閉口。そこが、私的にこの作品の評価を大きく下げる要因になっているので、あえて言わせてもらうと、
「そんなに正妻は邪魔なんかい?」
初めて読ん時に、まずビックリしたのは、重衡が生涯独身を通したかのような描かれ方。
作品中には、いわゆる「内裏女房」にあたる平親範の娘「玉緒」と言わずと知れた「千手」の二人の女性は登場しますが、なぜか肝心の正室藤原輔子は完全無視!
重衡が正妻に迎えようとするのが玉緒(都落ちで成就せず)で、南都引渡しの途上に日野で最後の別れをするのは鎌倉から追ってきた千手と、大納言典侍輔子の役割を二人で分け合う形になっていますが、これは、正妻がいながら、よそに情を交わす仲の女性がいるというのが(実際には他にも色々いたみたいですけど)、主人公のキャラクター上、ふさわしくないとでも判断してのものか…。
だとすれば、不用意に現代の価値観を持ち込んだ、悲しい改変と言わざるをえません。
というのも、輔子に関しては、色恋の問題だけでなく、父親の藤原邦綱の存在も大きいですからね(大河でもやはり無視でしたけど)。
大富豪でしかも朝廷との折衝に欠かせないフィクサー、そんな人物を舅に持つ重衡の立場というのは、政治的にかなり重要なポイントで、せっかく重衡を主役に据えたからには、その辺りのこともきちんと描いてこそ、意味があるのでは?と思われるのですよね。
ところで、この作品は1999年初版で、一時絶版になっていたものの、今年の初めにタイトルも新たに再刊行。
『 最後の御大将 平重衡 義経が最も恐れた男 』
(PHP文庫)
このベタなタイトルは、もちろん大河『義経』に便乗してのものでしょうが、「義経が最も恐れた男」というのはかなりの過剰広告。
確かに、幼少期より二人を対比するように、チョコチョコと義経の話を入れ込んでありますが、それも、平泉下向までのことで、その後は一ノ谷まで消息不明(笑)。
重衡と義経の接点も、一ノ谷直後から鎌倉下向までの京在留中と、南都へ向う最後の旅の道中の実質二度だけで、その間に、源平両軍の同じ立場に立つ者同士、互いに好感を抱き合い敬意を示す部分も確かにあるものの、それ以上の描写はありませんから、そこを期待して読まれるとガッカリ…ということにも。
あくまでも「平重衡」が主人公であることをどうかお忘れなく!
『平家慕情』(中津文彦著)
花の公達―平ノ重衡
平家一門の興亡のなかで、最後の御大将と呼ばれ戦い散った若き武将の光と影(~本の紹介文より)
平重衡という人物が後世の人々に与える印象といえば、『建礼門院右京太夫集』や『平家公達草紙』に描かれるような朗らかで屈託のない貴公子ぶりと、南都焼討を始めとする諸合戦での軍事手腕や、捕虜となって後の頼朝との対面でも評された豪胆な武人ぶり。
そんな二面性を持つ重衡の「武人」の面を特にクローズアップしたのがこの作品(少し美化しすぎのきらいもあり)。
ですから、前者の優雅な公達をイメージして読むとかなりの違和感もあり、無骨で正義感が強く、恋にも奥手(少しシスコンの気もあり)…の体育会系重衡(笑)は、宮廷貴族というより、むしろ鎌倉の武将に近いような感覚でしょうか。
といっても、合戦が主体というわけでもなく、むしろ、都落ち以前の政治的駆け引きを、父清盛に終始反発気味の重衡視点(というより現代人の視点か)で、時に批判的にも描写している所などは、中々丁寧に書き込まれていますし、何より、読み進めるうちにどんどん話に引き込まれ、最後まで一気に読み通してしまう…、それだけの勢いを感じさせる作品ではあります。
が、著者が男性だからか…。今の大河『義経』にも通じる女性観にはちょっと閉口。そこが、私的にこの作品の評価を大きく下げる要因になっているので、あえて言わせてもらうと、
「そんなに正妻は邪魔なんかい?」
初めて読ん時に、まずビックリしたのは、重衡が生涯独身を通したかのような描かれ方。
作品中には、いわゆる「内裏女房」にあたる平親範の娘「玉緒」と言わずと知れた「千手」の二人の女性は登場しますが、なぜか肝心の正室藤原輔子は完全無視!
重衡が正妻に迎えようとするのが玉緒(都落ちで成就せず)で、南都引渡しの途上に日野で最後の別れをするのは鎌倉から追ってきた千手と、大納言典侍輔子の役割を二人で分け合う形になっていますが、これは、正妻がいながら、よそに情を交わす仲の女性がいるというのが(実際には他にも色々いたみたいですけど)、主人公のキャラクター上、ふさわしくないとでも判断してのものか…。
だとすれば、不用意に現代の価値観を持ち込んだ、悲しい改変と言わざるをえません。
というのも、輔子に関しては、色恋の問題だけでなく、父親の藤原邦綱の存在も大きいですからね(大河でもやはり無視でしたけど)。
大富豪でしかも朝廷との折衝に欠かせないフィクサー、そんな人物を舅に持つ重衡の立場というのは、政治的にかなり重要なポイントで、せっかく重衡を主役に据えたからには、その辺りのこともきちんと描いてこそ、意味があるのでは?と思われるのですよね。
ところで、この作品は1999年初版で、一時絶版になっていたものの、今年の初めにタイトルも新たに再刊行。
『 最後の御大将 平重衡 義経が最も恐れた男 』
(PHP文庫)
このベタなタイトルは、もちろん大河『義経』に便乗してのものでしょうが、「義経が最も恐れた男」というのはかなりの過剰広告。
確かに、幼少期より二人を対比するように、チョコチョコと義経の話を入れ込んでありますが、それも、平泉下向までのことで、その後は一ノ谷まで消息不明(笑)。
重衡と義経の接点も、一ノ谷直後から鎌倉下向までの京在留中と、南都へ向う最後の旅の道中の実質二度だけで、その間に、源平両軍の同じ立場に立つ者同士、互いに好感を抱き合い敬意を示す部分も確かにあるものの、それ以上の描写はありませんから、そこを期待して読まれるとガッカリ…ということにも。
あくまでも「平重衡」が主人公であることをどうかお忘れなく!
by kiratemari
| 2005-07-10 12:21
| 書籍
|
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Comments(5)
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bluecat at 2005-07-11 09:22
手鞠さんおはようございます!再刊行のほう、おもわずタイトルで買ってしまいそうになってましたが、期待ハズレということなんですね(^_^;)危ないところ(?)を助けていただきました<m(__)m>でも読み物としては面白そうですね、正妻無視はいただけませんが・・・。
昨夜の大河の感想(ツッコミ?ボヤキ?)も楽しみにしていますね(^_-)-☆
昨夜の大河の感想(ツッコミ?ボヤキ?)も楽しみにしていますね(^_-)-☆
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kiratemari at 2005-07-11 12:54
bluecatさん、こんにちは。
いえいえ、必ずしも期待ハズレというわけではないのですよ (^^;)
なまじ予備知識があるとそれが邪魔になって入り込めない部分もありますが、『平家物語』をご存知でない方、あるいは、ちょっと年配の男性にも受けがよさそうな気も(笑)。重衡のキャラ自体が、律儀でチャラチャラしていなくて、なおかつ行動力もある…と、今時の若者に幻滅している向きには、かなりの好感度をマークしそうな… (^^;)
とりあえず、平家公達がお好きな方なら、読んで損ということはないと思います。図書館利用という手もありますが、再刊本は初版本のハードカバーよりはぐっとリーズナブル仕様ですし(*^^*)
いえいえ、必ずしも期待ハズレというわけではないのですよ (^^;)
なまじ予備知識があるとそれが邪魔になって入り込めない部分もありますが、『平家物語』をご存知でない方、あるいは、ちょっと年配の男性にも受けがよさそうな気も(笑)。重衡のキャラ自体が、律儀でチャラチャラしていなくて、なおかつ行動力もある…と、今時の若者に幻滅している向きには、かなりの好感度をマークしそうな… (^^;)
とりあえず、平家公達がお好きな方なら、読んで損ということはないと思います。図書館利用という手もありますが、再刊本は初版本のハードカバーよりはぐっとリーズナブル仕様ですし(*^^*)
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kiratemari at 2005-07-11 12:57
ちょっと書き足りなかったかな?と思っていたことを、少し本文に書き足しました。輔子の父邦綱に関する部分です。
手鞠さん、今晩は♪
輔子さんが完全無視というのはかなり不満ですけれど、なかなか面白そうな小説ですね。重衡は好きなので、彼を主人公にした小説が出版されていたというのは嬉しいです。文庫版も出ているということなので、早速捜してみますね。
輔子さんが完全無視というのはかなり不満ですけれど、なかなか面白そうな小説ですね。重衡は好きなので、彼を主人公にした小説が出版されていたというのは嬉しいです。文庫版も出ているということなので、早速捜してみますね。
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kiratemari at 2005-07-12 12:44
えりかさん、こんにちは。
輔子さんパートをしっかり書いてくれていれば、星5つあげてもいいかと思うのですけど(ちょっと甘め)、そうでないので星3つ(笑)。
でも、平家の公達視点で源平合戦を描いている小説なんてそうそうないので、一読の価値はあると思います。
輔子さんパートをしっかり書いてくれていれば、星5つあげてもいいかと思うのですけど(ちょっと甘め)、そうでないので星3つ(笑)。
でも、平家の公達視点で源平合戦を描いている小説なんてそうそうないので、一読の価値はあると思います。
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