義経と郷姫 ― 悲恋柚香菊 河越御前物語

c0057946_19235798.jpg先日「親知らず」を抜かれて、体調が悪いとまではいかないものの、気分がちょっぴりブルーなこの週末は、外出も控えて自宅でのんびりモード。ちょうど良い折だと思い、未読のままにしていた本を読むことにしました。

義経と郷姫(さとひめ)
  ―悲恋柚香菊(ゆうがぎく)河越御前物語 (篠綾子 著)

一ヶ月ほど前に本屋さんの店頭で見かけて、この手の本はまず文庫化はなさそうなのと、この著者の作品は以前にも読んでいて、それなりに好印象を持っていたのとで購入を即断。
タイトルからして、今年の大河に合わせての便乗なのはミエミエですが(笑)、可哀想なほどに歴史上では影が薄く、大河の方でも、まず、大した扱いはされないと断言もできる(涙) 義経の正妻―郷姫―が主人公と、この意外な着目点に興味をそそられたのでした。




 
【以下 ネタバレも少々ありますので、ご注意下さい】


とはいえ、「義経」とくれば、何を置いても、まずは「静御前」ですよね。
雪の吉野山での別離、鶴岡八幡宮での奉納舞など、ドラマティックな見せ場の多さで、義経最愛の女性として、つとに有名ですが、その太陽のような強烈なイメージを残す彼女と対照的に、とかく忘れられがちで地味な存在ながら、しかし、頼朝に追われる逃避行にも共に付き従ってついには平泉に至り、義経最期の時も共に自刃して果てたという事実を残すのが、正妻とされるこの女性。

義経の正妻には諸説あって、最も知られているのが、鎌倉御家人 河越太郎重頼女。母は頼朝の乳母比企尼の二女で、その縁による政略結婚と目されています。
「郷姫」という名前は、この書のあとがきにもありますが、『源平盛衰記』にある「郷御前」との表記からとったものだそうで、実際、世間でも割合広く認知されているようですが、原典そのものが非常に創作性・娯楽性の強いものだけに、その名称についても、後人の全くの創作である可能性もあります。

この小説も河越重頼女の説に従い書かれており、著者の篠綾子さんは、彼女の出自である河越氏の地元埼玉で高校教諭をなさっているとのことです。


さて、内容の方ですが、郷姫の輿入れから義経の栄光と挫折、逃亡、そして、平泉での最期までの軌跡を追いながらも、主人公が郷姫ということで、歴史的な部分はとりあえず表面をなぞっただけにとどまり、歴史小説と見る分には少し物足りなさも。
また、郷姫自身が感情をあまり表に出さない、ややもするとお人形的なキャラクターに陥りがちで、今ひとつ、強く惹きつけられるものがないようにも思われました。

むしろ、彼女を取り巻く3人の男性、一人はもちろん夫の義経ですが、他に、彼女に献身的に尽くす年下の若者(かつて彼は記憶喪失の状態で郷姫に拾われた)、そして、郷姫の初恋相手で鎌倉方の武将の中でも一二を争う実在の猛将(この方との関係はもちろん創作です)と、三者三様の輝きを持つこの男性達から、一様に熱い想いを寄せられる…という点に、彼女の魅力を見出すしかない所に、この女性がヒロインになりきれない所以のようなものを改めて感じもしました。

逆に、強い印象を残すのは静御前の人物像。純真無垢な郷姫との対比もあって、かなり姐御肌の大人の女性として描かれ(大河とは大違い)、己の身の程をわきまえ、正妻の郷姫にも不毛な嫉妬心を抱かないドライさは、白拍子という職業人らしい自立心の強さの表れでしょうか…。

この二人の女性の関係に、ふと頭をよぎったのは、『源氏物語』の紫の上と明石の上。
互いを認め合い、同じ男性を愛するという点で同志的な友情をも育む二人には、どこか「虚構の中での奇麗事」の感も否めないものの、一夫多妻という、今の感覚では真には理解しきれない当時の慣習の中では、そういう関係もまたアリなのでしょう。

長編と言っても、数時間足らずで読みきれる程良い長さ。また、作品としての良し悪しはともかく、通説とされるものとは少し違ったアプローチの仕方には見るべきものもあり、特に、今年の大河にご不満の向きには、好意的に受け入れられる部分もあるかもしれません。

そもそも、歴史小説といえども、そこに登場するキャラクターには、多分に著者の思惟が色濃く反映され、必ずしも、実像と一致するものではありません。その意味では、同じ作家の作品ばかりではなく、より多くの方の著書に触れることで、何通りもの人物像が浮かび上がり、歴史事項の見方そのものにも、幅を持たせることができるようにも思われます。

が、そうは入っても、こうした歴史小説の類は、一部の有名作家を除き、いざ探そうとしても、意外に見つけにくいものでもあります。
ということで、私がこれまでに読んだもの…といってもそう多くはありませんが、このブログを通して、今後、少しずつでもご紹介していければと考えています。
 
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by kiratemari | 2005-06-12 19:52 | 書籍 | Trackback | Comments(3)
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Commented by bluecat at 2005-06-14 08:59
手鞠さんこんにちは。レアな歴史小説の紹介ありがとうございます。義経の正室って影が薄いですよね、義経とともに衣川で自害したことになっているというのに・・・通盛と小宰相の件も、通盛には正室(宗盛の娘でしたっけ?(^_^;))が別にいたわけだし(だけど戦場に連れてきてしまうくらいだから小宰相を一番愛していたのでしょう)私は永井路子の小説がスキでしたけど、ドラマの原作にはほとんどなっていない気が。
Commented by kiratemari at 2005-06-14 13:11
bluecatさん、こんにちは。書き込みありがとうございます。
義経正妻については、最期を共にしたということからして、やはり、義経との間に強い愛情が育っていたのでしょうね。ただ、それがあまり後世に伝わっていないのが、また、不思議でもありますが…。

通盛の正室は『平家物語』でも2説に分かれていて、小宰相とする説(覚一本)と宗盛の娘説(延慶本)とあるようですが、後者の場合も、宗盛の娘は当時まだ幼少だったため形ばかりの夫婦で、最愛の女性はもちろん小宰相だったとしていますね。この二人のエピソードも意外に取り上げられることが少ないのは残念ですね。

永井路子さんの小説は私もよく読みますよ。源平~鎌倉時代を書かせたら、この方の右に出る方はいませんものね。おっしゃる通り『草燃える』が大河ドラマになって以後は、この時代の作品はドラマ化されていませんね(別の時代だと『毛利元就』があったと…)。個人的には『波のかたみ』なんかドラマ化してくれると嬉しいのですけど(原作をいじくり回さずそのままで)。
Commented by bluecat at 2005-06-17 10:30
永井路子さんの小説、手鞠さんも読まれるんですね♪私は大河の時代では「北条政子」を読みました。女性が主人公なので感情移入できやすいですよね。
小宰相は通盛の正妻だという説もあるんですね。正妻と言われている宗盛の娘は幼かったということですから、「源氏物語」の女三宮みたいなもので、小宰相はさしずめ紫の上といったところでしょうか?たいへんな美人だったようですので、ピッタリですね。
ところで、「義経」に、義経の正妻の郷御前こと、良子が登場するようです。無視されるかと思いましたが主人公の正妻、さすがにそれはできなかったようです、○HKさんといえども(^_^;)
義経と死闘を繰り広げる教経も登場するようですし、少しは安堵しましたw

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