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『母恋ひの記』

先週土曜日夜に放映された『母恋ひの記』。
75分という微妙な尺ですし、原作が谷崎潤一郎作品の中でもあまりメジャーなものではありませんし、正直言って「なぜ今これをドラマ化?」という疑問を持たずにはいられなかったのですが、結論から言えば、中々面白いドラマになっていたと思います。



 
今回は原作が薄手の文庫本でしたので、前もって予習してから視聴に臨めましたし、それが功を奏したところもありますね。

前半の左大臣時平が伯父の帥大納言国経の年若い妻を略奪するくだりなどは舞台劇をみるような重厚さに圧倒されつつ、セリフもほぼ原作通りに踏襲されていて、その後の「不浄観」にまつわる国経と幼い滋幹のシーンなども原作から受けたイメージそのままに映像化されていましたので、ほとんど違和感なく見ることができました。

中でも老大納言・国経役の大滝秀治さんは、原作の文庫本の挿絵から抜け出て来たようなハマリっぷりで…。
50も年の離れた若妻との睦み事での執拗さ(汗)、その愛妻を心ならずも差し出す時の狂乱、そして、妻去りし後の正気と狂気の狭間を彷徨う最晩年。

そもそも80歳近い夫に20歳そこそこの妻、そして7歳の息子という家族関係自体がファンタジーというか(爆)、ちょっと容易には想像しづらいシチュエーションなのですが、老いたりといえど男はやはり男、死ぬまで煩悩に苛まれ続ける悲しい男の性(さが)に、ある種の説得力も持たせながらの 怪演 熱演に思わず目が釘付けになりました。

一方、北の方については実質5~6歳の幼児の母親ですので、本来はもう少し若手の女優さんの方がいいのでは?という思いもあったのですが、このドラマが「母恋ひ」を謳い、その子が大人になってからも恋い慕う対象である以上、あまりに若すぎるキャスティングだと後半がチグハグでちょっと気持ち悪い感じにもなりかねませんから、まずは妥当な人選だったのではないでしょうか。平安装束に垂れ髪の効果もあって相応に若く見えましたし、母の顔と女の顔の両面を垣間見させるというのは、やはりそれなりに年齢を重ねた方でないと難しいでしょうしね。

とまあ、そんなこんなで前半は久しぶりに見ごたえのある時代ドラマとかなり見入っていたのですが、問題は子供世代の後半で…。

原作ではほぼ完全にすっ飛ばされている滋幹の青年時代をドラマ用に脚本家オリジナルで創作した部分が…、

何なんですか? あの昼メロを彷彿とさせるような不毛な争いは… (-_-;)

お母様をめぐる三角関係風も、敦忠がせいぜい14~5歳の多感な年頃ぐらいのエピソードならまだ受け入れ易いのですけど、20歳過ぎてやられると正直引きます。

しかも百人一首にも歌を残す才子・才媛に何をやらせるんですか?
あの蓮っ葉風な右近の君が「わすらるる身をば思はず…」の作者の右近さんだったとは…。
初見では気づかず、敦忠がらみで調べていてわかった時は愕然としましたよ (~_~;)

43番-権中納言敦忠
  逢ひみてののちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり

38番-右近
  わすらるる身をば思はずちかひてし人の命のをしくもあるかな

二人は実際に恋仲にあったらしく、この右近の歌は敦忠の「逢ひみての…」の歌に対する返歌と見る向きもあるようです。ただ、仮にそうとしても、「人の命のをしくもあるかな」の結びがさながら誓いを破った天罰のように早世した敦忠の最期を予言しているようでもあるところから察するに、後付けで彼の死後に詠まれたと見る方が自然のように思われますが…。

いずれにせよ、この辺りから右近という名を引っ張って来たのでしょうが、ここまでオリジナル脚色するならついでに名前も創作して下さい。流した浮名は数知れず…の敦忠さんなら、滋幹の奥方になるような女性との交情もあっても不思議ではないでしょうし… (^^ゞ

はっきり言って、このオリジナル部分は要りません。
いっそいきなり再会シーンに繋げて45分にまとめてくれてもよかったぐらいで…。

それでなければ、ドラマでは完全スルーでしたが、原作では影の主役ともいうべき平中も登場させて、北の方略奪の経緯をもっと丁寧に描いてくれた方がこちらは嬉しかったですね。

実は密かに北の方と交渉を持っていた数寄者で、時平に北の方の存在を教え、この悲劇の元凶を作った男。ドラマでも幼い滋幹が腕に和歌を書かれるシーンがありましたが、原作ではあの歌の贈り主は国経でなく平中。滋幹を上手く手なずけて橋渡し役に仕立て上げ、北の方も平中とわかった上での返歌。滋幹自身も後に自分が利用されていたことに気づくという形になっています。

ああいう粋な趣向をすっかり抜け殻のようになっている国経が思い付くというのも、どうもピンときませんし、下手にエピソードだけ移植したのが却って違和感を残したようにも…。

これに関して今ふと思ったのは、もしや、一番最初に見た制作情報では名前が挙がっていながら、結局出演なしだった某男優さんが実はこの平中役の予定だったとか? 当初は平中がらみも描く予定が、北の方が夫以外の男と情を交わしていた魔性の女というのはマイナスイメージになってマズイというクレームでもついて全カットになったとか?

あくまでも勝手な推測ですが、もし内部でそういう遣り取りがあった末のこの結果とすれば…、今の時代ではとても理解できないような当時の男女関係をそのままドラマ化するのは難しいのもよくわかりますが、ただ国経周りであれだけ頑張ったのですから、できればその勢いのまま最後まで突っ走って欲しかったというのが本音です。

そして、そこまで人間の持つ業にも踏み込んできっちり描いてくれていれば、記憶に残る名作と成り得たのではないかと…。
by kiratemari | 2008-12-17 20:09 | テレビ | Trackback | Comments(4)
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Commented by えりか at 2008-12-18 21:33 x
 手鞠さん、今晩は♪

 「母恋ひのき」、私も見ていましたが、手鞠さんのドラマ感想、うんうんとうなずきながら読ませていただきました。原作を読んだことがあるからかもしれませんが、全くおっしゃる通りです!

 私も前半は見応えあるドラマだと思って楽しんで見ていたのですが、後半部分はいらなかったと思います。もうちょっと国経と時平にスポットを当てて欲しかったですよね。

 右近の方ってやっぱり百人一首の右近だったのですね。右近にしても敦忠にしても、このドラマで印象が壊れてしまったような…。あまり印象を壊さないで欲しいです。
 それに、あのような大の大人になってもうじうじと母を恋しがっている滋幹にはとうてい感情移入できませんでした。そして、平中が出てこなかったこともがっかりですね。こうなったらもう一度原作を読んで、頭の中を整理したいと思いました。
Commented by 手鞠 at 2008-12-18 23:23 x
えりかさん、こんばんは~♪
確かに原作を読んでいなければもっと違った感想になったでしょうね。でも、その場合、あの独特の谷崎ワールドが受け付けない恐れも…。あれは文章で読まないとちょっと理解し難いものがありますから… (^^ゞ

右近の方は、敦忠がらみで行くとやはり百人一首の右近に想起した女性と見るのが自然ではないかと…。まあ脚本家氏としては名前だけ拝借したという軽いノリなのでしょうが、そもそもこういうドラマを意欲的に見ようと思う層は、わりあいこの手の事柄には敏感な人が多いですから、ちょっと配慮が足りなかったんじゃないかと思いますね。
Commented by みのる at 2009-02-02 11:51 x
キャスト黒木瞳 劇団ひとり 内山理名 長塚京三 大滝秀治 本田博太郎 松田史朗 桐山靖信 葉山和彦ドラマ映画とは違う平安の衣装と映像がきれいでした
Commented by 手鞠 at 2009-02-03 00:34 x
みのるさん、こんばんは~♪
そうですね。時代物の中でも平安時代を扱う作品はどんどん稀少になって来ていますし、あの独特の雰囲気を目の当たりにできただけでも、ホントいい目の保養になりました (^-^)

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