想夫恋・小督 ― vol.1『平家物語』では…

以前、ご紹介した宝塚の公演 『想夫恋』 の観劇日がそろそろ近づいて来たことでもあり、予習というわけではありませんが(どうせ丸っきり別物でしょうから)、これを機会に「小督」の章について少し掘り下げてみることにします。

ただ、この小督説話に関しては、物語的な脚色がかなり施されていて、実際の背景とは食い違う点が多々ありますので、数回の連載形式にして、それぞれ順を追って見て行こうと思います。



ということで、まずは 『平家物語』 のおさらいから…。
 
と、その前に 「小督(こごう)」 という呼称の由来ですが、これは彼女の父である 藤原成範 (=しげのり) が 右兵衛督→左兵衛督→右衛門督 と 「督(かみ)」 の職を歴任している間に女房として宮廷に出仕したことによるものでしょうが、その時、既に 「督」 を用いた 侍名(さぶらいな)を 持つ先輩格がいたことから、それと区別する意味で 「小督」 となったものと見られ、読みも 「こかみ」 が訛って 「こごう」 (旧仮名づかいでは「こがう」) と変化したようです。

さて、その 「小督」 の章段は 『平家物語』 巻6 (覚一本など)。
以仁王の謀反、伊豆の源頼朝の挙兵と平家全盛の世から一転、世上が大きな混乱を来たし始めたその最中に崩御した 新院=高倉院 を偲んでの「賢帝追悼特集記事」 3連発 の大トリとして登場します。

ちなみに、追悼その1は、愛眼していた紅葉の落ち葉を酒を燗する薪にしてしまった下男や、盗人に主人の装束を奪われて途方に暮れていた女の童に示した高倉天皇の寛容さを讃える 「紅葉」 の章。

次いで、追悼その2は、初恋にも似た淡い恋心を抱きながらも、中宮徳子への気兼ねや外聞を憚って遠ざけた少女との悲恋を語る 「葵前(あおいのまえ)」 の章。

そして、その葵前があっけなく病死して悲嘆に沈む帝を慰めるために、中宮徳子が自分付きの女房の中から遣わした美女というのが 「小督」 。この辺りの経緯は実際とは少々異なるのですが、ここでは、とりあえず 『平家物語』 の通りに話を進めて行きますと…、

傷心の高倉天皇のハートを見事射止めた小督は、宮中一の美女と評される一方、琴の名手としても知られた才色兼備の女性。当然、世の男達の憧れの的でもあり、帝のお手が付く前には、近衛少将・藤原隆房という恋人もいました(この隆房には平清盛の娘である正妻がいましたから、あくまでも愛人扱いということで)。

その隆房は小督が帝の寵愛を受けるようになってからも未練たらたら…。
どうにか彼女の気を引こうと半ストーカー行為に出る始末で、隆房の正妻も高倉天皇の正妃も我が娘の平清盛は「二人の婿を小督に盗られた!」と大激怒。
「いっそ亡き者にしてしまえ!」とまでのたまったか否か…それはともかく、そうした噂を漏れ聞いた小督は、人知れず内裏から姿を消して行方をくらましてしまいます。

小督の突然の失踪に、天皇は深い歎きから引き籠もり状態に陥りますが、これがまた面白くない清盛は、身の回りの世話をする女房達を引き上げさせ、また、参内する臣下にも目を光らせて天皇の孤立化を図るなど、大人げのないことこの上なし。

すっかり総すかんをくらった形の高倉天皇は、やがて、八月の十五夜も近いある月の夜に、その日たまたま宿直として控えていた 弾正少弼(だんじょうのしょうひつ) 源仲国 を呼びつけ、どこから聞きつけたものか、

「小督が嵯峨の辺の片折戸(かたおりど)の家にいるらしい」との情報があるので、どうにか尋ね出してもらいたいと頼みます。
 ※片折戸はその名通り片開きの戸。両開きのものは両折戸(もろおりど)。

しかし、単に「片折戸の家」という手がかりだけで、その家の主人の名もわからないのでは探しようがないと、仲国も一旦は辞退するものの、涙を流して落胆を露わにする様を見せつけられて同情心を掻き立てられたのか、

「琴の名手の小督が、この月の美しい夜に帝を偲んで琴を弾かないわけがない。もし琴を弾いていれば、御所での管弦の折には、いつも笛役として合奏の相手を務めていた自分なら、その音色で間違いなく小督とわかる!」

と思い直して、小督探索の役目を引き受けることにし、尋ね当てた時に自分が使者である身の証となるよう、天皇直筆の手紙を賜って、馬で一路嵯峨へと向かいます。

そして「片折戸の家」を見つけては、耳をすまして琴の音を探るということを繰り返すものの、期待に反して琴の音は聞こえて来ず、役目を果たせないままでは帝に顔向けができないし、いっそこのままトンズラしようか、しかし、かといって行く当てもないし…とウジウジと考え込んでいたところに、天の助けか…(笑)、念願の琴の音が…。

『想夫恋』 を奏でるそれが、紛れもない小督の手によるものと確信した仲国は、自身も腰に差していた笛を手に取り、その調べに合わせて一節吹き鳴らすと、やがて、門を叩いて宮中からの使者である旨を伝えますが、「お門違いでしょう」と門前払いされそうになり、焦った仲国は強引に家の中へと乱入して、ついに小督を発見します。

帝からの直筆の手紙を差し出され、深く動揺する小督。
清盛の仕打ちを恐れて逃げるように宮中を去って以来、この嵯峨の地に隠れ住んでいたものの、ようやく決心もついて、明日には尼となるべく大原に移ることから、せめて名残りにとこの家の主人の女房のすすめもあって、久しぶりに琴を奏でたところ、図らずも居場所を見つけられてしまった…と、その間の悪さを小督はひどく嘆きます。

が、片や仲国の方は、出家間際に探して当てることができたその幸運を喜び、帝のためにも断じて出家は思い留まるようにと強く懇願。召し連れてきた従者を護衛役として残し、小督をこの家から一歩も出さないようにと命じて、自分は急ぎ内裏へと駆け戻ります。

仲国からの報告で小督の無事を知った高倉天皇はもちろん大喜びし、すぐにも密かに内裏へ迎え入れるよう命じ、その後は人目につかない所に隠し住まわせて通っていたところ、やがて、二人の間に姫宮が誕生ということに。

しかし、それを知った清盛が「失踪したというのは偽りであったか!」と前にも増して大激怒。小督は捕えられ、無理やり尼の姿にされて、宮中より追放されるという憂き目を見ることになります。この時、小督23歳。

尼となって以後の彼女は再び嵯峨の辺に隠棲し、愛する人を失った高倉天皇はこうした数々の心労が重なって、ついには21歳という若さで崩御するに至った…と結んでいます。


とまあ、以上が『平家物語』等に見られるごく一般的な「小督」の物語の概略になりますが、入道相国平清盛という極悪人によって引き裂かれた悲恋という構図は、事実をかなり歪曲したもので、その背景には実はもっと複雑な事象が絡み合っています。

ということで、おなじみの「史実では…」のお話は続く 第2弾 にて。
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by kiratemari | 2006-01-31 19:45 | 歴史語り | Trackback | Comments(0)
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