日本語は難しい!?―『義経』vol.14「さらば奥州」

予想どおりではありましたが、開始10分で終了した「橋合戦」。最初に義経と秀衡の草笛吹きなども入ったため、正味4分のあっけない幕切れでした。

しかし、宇治川の激流も見せず(エンディングの義経紀行で少し流れてましたが)、どこだかさっぱりわからない本陣に、いきなり平家軍がなだれこんで来たのも大概ですが、あんな至近距離からゆうゆうと弓を引き絞る知盛殿と、射て下さいと言わんばかりに突っ立っている頼政殿。そして、それをボケーッと眺めている重衡に、父上がターゲットにされているのに射られるまで気づかない(?)仲綱…。本当にこれは戦場なんですかい? ドラマに締まりがない以上、せめて、合戦くらいは勇壮、かつ、ド迫力でお願いしたいのですけどね……。

それにしても、放送開始当初からずっと気にはなっていたのですが、このドラマ、構成的に「起承転結」の「転」の部分で終わるパターンが多いんですよね。で、次回の冒頭で「結」の部分をやって、また「起・承・転」。盛り上がりかけた所で切って、この続きをお楽しみに…というのは、ドラマ作りの常套手段ながら、せっかく高揚してきたものをプツっと切られて、次回も同じテンションで見続けるなんてことはまず無理な話で、今回の頼政の自刃にしても、いっそ「頼政」スペシャル(笑)と銘打って、前回1回に、全部凝縮してもよかったのでは?という気がします(だからって、先に挙げたゆるい演出は容認しませんよ)。

さて、以仁王様もわずか数秒の絶命シーンで逝ってしまい、福原遷都、山木襲撃、石橋山の合戦と、これまた、ほとんどお徳婆のナレだけで終了(政子の兄宗時の討死もセリフで済まさず映像でちゃんと表現してくれ…)。何だかドラマというよりは、朗読劇を見ているようで、しかし、それにしては読み違いが多すぎる…という難点も。

これまでにも「法住寺殿」を「ほうじゅうじでん」、「鳥羽殿」を「とばでん」と読んだのには、方々で、かなりのツッコミを入れられていましたが(正しくは「でん」ではなく「どの」と読みます)、中宮徳子も最近の流れとしては「ノリコ」と読ませ、原作の宮尾本でもそれに習っているらしい(未読のため某所で聞き及んだ所では)のにも関わらず、ドラマ化の過程で「トクコ」に改変されたようですね。

そして、今回気になったのが、頼朝の許へ赴きたい旨を、義経が秀衡に願い出た際のセリフの「お暇を」。これを「おヒマ」と読んじゃいますか…。時代物では「おイトマ」と言った方がおさまりがいいですし、この脚本家の方が時代劇も数多く手掛けていらっしゃることから見ても、まず「おヒマ」を意図して書いたとは思えないんですよね。
とすると、演出家か演じ手本人が読み違え、現場にそれをチェックする人が誰もいない……ということになるわけですが、これって、かなり問題ではないでしょうか。

間違ったものをそうと気づかずにO.A.し、それを見た視聴者も何の疑いもなく鵜呑みにしてしまう怖さ……。「教育番組ではない」「歴史の授業をやっているわけではない」などという口上も言い訳になりませんよ。もう少し、現場レベルで日本史や日本語の不勉強さをよく自覚してもらわないと…。




 
今週の特集?【平家の女人は乳母ぞろい】

毎度お馴染みの井戸端会議。今回も暢気に「菊見の宴」と洒落込み、奇妙な異世界を演出していましたが、ああいう映像を見せられると、実は、彼女らもまた、平家の栄華を支える重要な担い手だったと申し上げた所で、まるで説得力がないでしょうね(ただのお気楽 有閑マダムではないのですよ)。

なお、最初にお断りしておきますと、平家の女性達の名前については、時子・領子(時忠室)・経子(重盛室)・輔子(重衡室)は実名ですが、明子(知盛室)・能子(義経妹)などは、原作者の宮尾さんの創作によります。

そもそも、女性の実名は、公卿日記を始めとする史料に記された、叙位の記録などから判明する場合がほとんどで、特に先の4人は、全員、天皇の乳母。
      二条天皇・・・時子
      高倉天皇・・・経子
      安徳天皇・・・領子・輔子

ドラマでは完全に無視されていますが、安徳天皇の乳母については、当初は、宗盛の妻が予定されていました。ところが、中宮徳子に先んじて出産し、その直後に死去したため、急遽、時忠の妻である領子がピンチヒッターに選ばれ、皇子誕生の際の「乳付け」の役を務めることになったという裏事情も。なお、輔子には子供がありませんでしたから、授乳を伴わない養育係で、第一乳母の領子に次ぐ補佐官といった役回りと言っていいかもしれません。

一方、実名のわからない知盛室(侯名は治部卿局)は、安徳天皇よりおよそ三月遅れで誕生した異母弟 守貞親王 の乳母になっていますが、ほぼ同年の皇子となると、安徳天皇に万一のことがあった場合、最有力の後継候補になり得ますからね。何としても、平家一門の手の内に囲い込んでおかなくてはならないという危機感から、特に一門の中でも信頼の厚い知盛の妻が選ばれたものと思われます。

ということで、表面的な格付けとしては、「天皇(主)乳母」>「二宮(主)乳母」>「天皇乳母(補)」と見るべきなのでしょうが、そうは言っても、やはり天皇の乳母というのは、かなりの権威を持っていましたからね。摂関家に次ぐ権門に成長した閑院流も、代々、天皇の乳母を輩出することでのし上がってきたことを思うと、中流貴族にとっては、これぞ出世への早道。その争奪戦も、それは凄まじいものだったようですから、知盛にすれば「貧乏くじ」を引かされたという気持ちも、多少はあったでしょうね。

しかも、重衡が運良く(?)妻輔子を乳母役に滑り込ませることができたのは、輔子の父である権大納言 藤原邦綱 の力による所が大きく、三人の娘を相次いで六条-高倉天皇の乳母(成子・邦子・綱子)に押し込み、昇進を重ねてきたこの舅の処世術には、重衡も学ぶべきことが多かったでしょうから、仮に、平家の時代がそのままずっと続いていたなら、将来的に、宗盛や知盛を凌ぐ力を持ち、あるいは、平家嫡流に躍り出た可能性も十分あります。

ですから、本来は、仲良しこよし……などではとても済まない、複雑な感情を内に秘めていたであろう平家の女人達。その笑顔の下に隠された本音の部分に迫るというのも、中々おもしろいと思うのですが……、このぬる~いドラマでそれを望むのは、どだい無理な話ですよね。
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by kiratemari | 2005-04-12 19:56 | テレビ | Trackback(1) | Comments(7)
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Tracked from えりかの平安な日々 at 2005-04-16 22:59
タイトル : 大河ドラマ「義経」第14回&梶原景時
 大河ドラマ「義経」第14回の感想です。  橋合戦は、予想通り(?)あっさり簡単にすまされてしまいましたね。 頼政の討ち死にのシーンも、矢が一本刺さっで、「これまで」と一言叫んだだけで終わってしまいました。以仁王に至っては、矢が刺さったところは一応映像で流れましたが、ほぼナレーションだけで終わってしまいました。そして、その矢の刺さった場所は頼政とほぼ同じ所でした。 義経が主人公のドラマなので仕方がないとは思うものの、原作が軍記物の「平家物語」なのですから、合戦シーンくらいはちゃんとやって欲しいなと、...... more
Commented by えりか at 2005-04-13 12:16 x
 手鞠さん、こんにちは♪いつもながらの鋭いご感想、今週も興味深く、楽しく読ませていただきました。

 橋合戦のあっけなさは、私もとてもがっかりしました。せめて合戦シーンくらいは、しっかりやって欲しいですよね。

 それから、ドラマの終わり方が中途半端というのは、私もいつも感じます。今週も、義経が奥州を出発し、秀衡がそれを見送るところで終わりにしても良かったように思えます。平家の女達はのんきに井戸端会議をしているし……。ただ、経子さんの微妙な立場がちょっと気になったのですが。それにしてものんきすぎます。
 それに、時子さんって清盛の福原遷都にあんなに反対したとは思えないのですが。むしろ、喜んで清盛に協力したのではないでしょうか?このドラマでの時子の描き方はかなり疑問です。

 では、では、私も早く感想を書かなくてはと思っているのですが、目の疲れから頭痛になってしまい、文章や考察がなかなか浮かびません(言い訳)。今週中にはUPできるように頑張りますね。
Commented by kiratemari at 2005-04-13 18:30
義経の奥州出立を見送る秀衡の図―、確かに、そこで終わった方が心を打つものがあって、それまでのおざなりの展開も少しは許せたかもしれませんね。そういう、視聴者の側に立ったドラマ作りをすれば、随分と違うんですけどね…。

眼精疲労に頭痛は、私もご同様。やはり、PCに向かう時間が長いと、ヤバイなあと思うのですが、ついつい……(-_-;)
私もいつも、えりかさんの感想を楽しみにしていますが、どうぞ、ご無理はなさらず、ゆっくりと…。ご自身の納得の行くものを書かれるのが第一ですからね。
Commented by nekonezumiiro at 2016-09-20 23:00
 大変お久しぶりです。『義経』第14話「さらば奥州」、手鞠さんも触れていらっしゃる序盤の橋合戦。阿部寛さん扮する平知盛の武者姿、兜の眉庇(まびさし)に陣取る猪顔の平たい鍬形台に着目します。
 一見『風と雲と虹と』を連想させるデザインですが、ほかにもどこかで見覚えありませんか?(確かにあの松ケンさんも後ほどお召しになったこの黒糸縅鎧ですが、その件はここでは置いといて…。)
 もしかしたら公共図書館でご覧になったことがおありでしょう、『原色日本服飾史』。風俗博物館(老舗法衣店「井筒」さんの社屋内にある)初代館長、故・井筒雅風氏の著書です。その中に登場する「大鎧をつけた武将」の兜にも、同じような鍬形台が備わっていました。ただ、こちらも『風と雲と虹と』をもしかすると参考にしていたのかもしれませんね。(全面書き直しました。)
Commented by 手鞠 at 2016-09-21 23:12 x
nekonezumiiroさん
返信が遅くなりどうもすみません!m(__)m

『義経』からもう10年以上経ちましたね。
長く見直してもいないので、その時の映像などもあまり記憶に残っておらず何とも申せませんが(汗)、鎧兜など新たに製作される場合、やはり何某かのモデルは必要でしょうし、そういう書籍に取り上げられるようなものを参考にするのももちろんありでしょうね。
Commented by nekonezumiiro at 2016-09-26 22:52
 こんばんは。「さらば奥州」次は中盤、石橋山の合戦です。
まずは伊藤敏八さん扮する大庭景親の武装を見てみましょう。七曜紋の革所と菱縫いの板に散りばめられた菊の据紋が目を引く赤糸縅の大鎧。星兜も唐獅子の鍬形台が睨みを利かせ、長鍬形がそびえます。
 きっと『草燃える』や『武蔵坊弁慶』、さらには『北条時宗』(これも完全版DVDが出ていません)第28話「あの兄を討て!」二月騒動の北条教時役・神尾佑さんを思い起こさせるでしょう。
 特に『義経』の総監督はもともと『武蔵坊弁慶』にも参加していらした黛さんだとだけあって、兜のかぶり方も川野さんと非常によく似ています。

 少し戻って山木兼隆邸討ち入りの場面です。小林稔侍さん扮する北条時政の鎧姿(映像が暗いので縅糸の色目はうまく判別できません)、前回触れました猪顔の鍬形台はこの兜にも同じく備わっています。
 ここで気になったのは、いずれの武者の兜からも烏帽子が出ていないこと。映像こそ流用でないことはわかりますが、赤糸縅鎧の武者姿も上述の神尾さんにそっくりです。
Commented by 手鞠 at 2016-09-30 19:08 x
nekonezumiiroさん

いろいろあるものですね。
時代の近い作品では装束武具の使い回しもしょうがないでしょうね。さすがに幕末物に同じものが出て来るようではちょっと考え物ですが。

映像もO.A.されたものそのままではなくとも、別角度から撮っていたものを流用されているケースもありそうですね (^_^;)
Commented by nekonezumiiro at 2017-01-24 01:47
またまた失礼します。「さらば奥州」でまだ触れ忘れていた点がありましたもので。

 頼政父子が籠城する平等院境内。知盛・重衡の接近を告げる従者が駆け込んで来ます。その紺糸縅鎧兜の後ろ姿!錏(しころ)から覗く髪と鉢の球面に沿って垂れ下がる烏帽子がどちらも長いこと長いこと(後に同じ宇治川を赤糸縅胴丸鎧姿で渡る義経にも同じことがいえます)。

 終盤、頼朝が待つ黄瀬川の陣を目指し南下する騎馬武者の一団。よく見ると義経は右腰に大鎧の脇楯(わいだて)を当てていますね。草摺りの縅し糸もこれまた紺色、次話「兄と弟」で見られる一度限りの大鎧姿はなんと清盛役・渡さんのおさがりだったりするんです!?

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